オーナー企業というと悪いイメージを持つ人が多いと思います。
よくある悪いイメージは、会社の私物化で、会社の金で豪遊したり、従業員を奴隷のように扱ったり、と確かに現実にはこういう会社もあるのだと思います。
ですが、逆説的ですがこういった会社を見てオーナー企業を批判することが出来るでしょうか。
とある会社の話。
その会社は、社歴は長く50-60年位?オーナー企業で高度成長と共に大きく躍進し、当時は従業員も1000人近くいた業界では有名なメーカーでした。
業績もまずまずだったのですが、5年位にオーナー一族が投資ファンドに会社を売り、以来、ファンドが経営していました。
ファンドが経営といっても頭でっかちなファンドの社員には、専門性の高いメーカーの経営はできません。
ですから表向きの代表は、古参の社員が代表を務めていました。
その古参社員は、人柄は良く真面目な方でしたが、いかんせん、経営者としての教育を受けた方ではなく、(言葉は悪いですが)工場長位の器の方でした。
ここで、新型コロナが猛威を振るい始めます。
業績は、そこの製品を売る店が営業できなくなり急低下します。
2021年度決算は大赤字でした。
結果、ファンドはその会社を見限り、従業員の多くを解雇し、主だった資産を売却することにしました。
ファンドは不動産などの資産を売却したことで、損は回収したようです。
実はこういった会社に先日お邪魔する機会がありました。
社員は既に解雇され、もぬけの殻でした。
食堂には、その地域のハローワークの臨時受付所(?)になっていて解雇された社員たちの再就職の場を会社が準備していたのだと思います。
・・・とそんなお話です。
これを見た私はオーナーを失ったオーナー企業(サラリーマン企業化した元オーナー企業)の成れの果てを見たような気がしました。
何が違うか?
それは危機に対して
【長期に対する視点】と
【あがくこと】だと思います。
その会社と当社は業種業態が違うため単純な比較はできません。
ですが詳しく会社分析をすると、その会社は従前、特定企業の売上が全体売上に対して突出して高く、私から見るとすごくリスクに感じてました。
新型コロナにより、その売上高が突出した企業がダメになり、結果、連鎖的に業績が悪化したのです。
更に言えば、取引条件が悪く、相当な製品在庫を持たされていたのでこれも業績を圧迫した要因だったと思います。
何故、その取引先だけに売上を集中させてしまったのか?
私だったらファンドに会社を売る時に、その取引先にも一定割合の株式を持ってもらうよう交渉したと思います。
そしてもし、それを断れたのなら、その取引先の売上シェアを落とすように頭を下げてでもお願いしたと思います。
これは【長期的なリスクに対する視点】が足りなかったことに他ならないと思います。
もちろん、長期的なリスクを予見することなど自分も含めて殆どの人はできないでしょう。
だから次の【あがくこと】なのです。
新型コロナにより当社(ビッグヴィジョン、ヨシムラ、オリテック)の3社も大打撃を受けました。
特に、多店舗展開しているビッグヴィジョンとその製造を司るオリテックは、前が売れなければ、後ろの製造も枯渇してダブルパンチになります。
ですからコロナ禍で私がしたことは、販売と製造のマイナスノスパイラルからの回避でした。
この2年、全精力をそれに注いでいたといっても過言ではありません。
具体的に何をしたか?
それは2021年度で言えば、医療用防護服の縫製受託でした。
結果、販売のビッグヴィジョンの方は業績はどうしても悪化しましたが、縫製工場の方は何とか黒字を維持できました。
これは会社が持っていた本来の業務能力ではなく【あがいた】結果生まれた産物です。
オーナー企業は、普通は個人で連帯保証をしていますから、もし仮に会社が倒産すれば家屋敷含め全てを召し取られてしまいます。
だからこそ必死です。
また、長年企業を維持していた自負から来る責任感もあります。
会社の関係者というのは雇っている従業員の数ではありません。
従業員数の家族を含めれば3〜4倍の関係者がおります。
彼らの生活を背負うこと、この意識はやはりオーナー経営者でなければ負えない重責なのでしょうか?
【長期的な視点】と【あがくこと】これに早い決断力をもって運営することがオーナー企業に必要なことなのだと思います。
今回、件の会社に出向くことで、改めて自分の責任を痛感しました。
当社も社歴だけは長く、吉村株式会社の方は130年以上の歴史があります。
私の責務は、それを永続することであり、個人の生活を豊かにすることではありません。
私のビジネスパーソンとしての賞味期限はあと10年位でしょうけれど、それまで気を抜かず全力で走りぬきたいと思います。